最適化一口話

仕事として数理最適化を実践している立場から、その中身や可能性について概説しております。

数理最適化に意思決定ができるのか?

倉庫には容量以上の在庫は入らない。 納期を守るには先立って一定のリソースを割く必要があるし、 休暇は所定の数だけ必ず取ってもらわねばならない。 数理最適化はそんなビジネスの「ロジック」を取り出して記述し、 その枠内で良さげな答を探しださせる手法です。 しかしビジネスが「ロジック」だけで動いているかというと、さにあらず。 実務家はロジックの枠に「意志」とか「予測」とか「期待」を流し込んでゆくのが普通です。 時に彼らは問題の枠組みや制約を踏み外して、使える答をひねりだしてしまうことだってあります。

私も以前は好んで使っていたこういう宣伝文句

「(数理)最適化で意思決定!」

お聞きになったことありますでしょうか。 私の経験で言うといまいちで「意思決定」というワードがお客様の胸に響いたということはなかったように思っています。 数理最適化は自動化という言葉で括られる所作、 例えばエネルギーコストを最小化すべく動力プラントのボイラーの運転を決めたり、 レコメンドしたりといったいわば「マイクロ意思決定」は十分できているのですが、 新しい営業所を開いたり大規模な設備を増設したりといった人間が担当している重要な意思決定であるほど、ロジック以外の部分を無視することはできないので、数理最適化任せにできないという感覚をお持ちの方が多いということだと思います。

では、「ロジック」の権化である数理最適化は何もできないかというとそうでもなく、得意なその路線で頑張ればよい。

「もしこの設備を導入したとして最適に運転したとすると..」
「すべての人の休暇希望を叶えて、できるだけ残業を減らすには..」
「コストはさておいて生産性を最大にしてみると..」

数理最適化は恣意性が入らない、 誰もが認める「ロジック」を冷徹に突き詰めた答を出すことで、意思決定者の検討材料を増やすことができます。 シミュレーションとしての利用と言えるでしょうか。「最適にする」という一言でくどくどデータを与える必要がないのがメリット。

そんなわけで先のフレーズを言い直すと

「数理最適化で意思決定の脇を固めましょう!」

となるでしょうか。意思決定の裏方仕事ならちゃんとできることはわかってほしいなと願っています。

コンピュータの得意な部分をどうやって人間の仕事に組み込むのかという文脈で、 「アドバンスド将棋」に関する論考を見つけました。人によってコンピュータに任せようとする部分は様々なのも面白い。こういった考察はまだ初まったばかりなのだと感じました。人工知能に支配される暗黒の未来といったホラーな話よりもぐっと夢があって、わくわくする話であります。